あやしのもの
怪しの者

冒頭文

一 乞食の権七が物語った。 尾張の国春日井郡、庄内川の岸の、草の中に寝ていたのは、正徳三年六月十日の、午後のことでありました。いくらか靄(もや)を含んでいて、白っぽく見えてはおりましたが、でもよく晴れた夏の空を、自分の遊歩場(あそびば)ででもあるかのように、鳶(とび)が舞っておりましたっけ。 ふと人の気勢(けはい)を感じたので、躰(からだ)を蔽(おお)うている草の間から、

文字遣い

新字新仮名

初出

「日本伝奇名作全集4 剣侠受難・生死卍巴(他)」番町書房、1970(昭和45)年2月25日

底本

  • 日本伝奇名作全集4 剣侠受難・生死卍巴(他)
  • 番町書房
  • 1970(昭和45)年2月25日