さるがきょうかたみみでんせつ |
猿ヶ京片耳伝説 |
冒頭文
痛む耳 「耳が痛んでなりませぬ」 と女は云って、掌(てのひら)で左の耳を抑えた。 年増(としま)ではあるが美しいその武士の妻女は、地に据えられた駕籠の、たれのかかげられた隙から顔を覗かせて、そう云ったのであった。 もう一挺の駕籠が地に据えられてあり、それには、女の良人(おっと)らしい立派な武士が乗っていたが、 「こまったものだの。出来たら辛棒(しんぼう)おし。もう
文字遣い
新字新仮名
初出
「冨士」1937(昭和12)年10月
底本
- 怪しの館 短編
- 国枝史郎伝奇文庫28、講談社
- 1976(昭和51)年11月12日