かいうんのつづみ
開運の鼓

冒頭文

一 将軍家斉の時代であった。天保の初年から天候が不順で旱天と洪水とが交〻(こもごも)襲い夏寒く冬暑く日本全国の田や畑には実らない作物が枯れ腐って凶年の相を現わしたが、俄然大飢饉が見舞って来た。将軍家お膝元大江戸でさえ餓莩(がひょう)道に横たわり死骸から発する腥(なまぐさ)い匂いが空を立ち籠めるというありさまであった。 上野広小路に救い小屋を設けて、幕府では貧民を救助した。また浅草の

文字遣い

新字新仮名

初出

「サンデー毎日」1924(大正13)年1月1日

底本

  • 怪しの館 短編
  • 国枝史郎伝奇文庫28、講談社
  • 1976(昭和51)年11月12日