あやしのやかた |
怪しの館 |
冒頭文
一 ここは浅草の奥山である。そこに一軒の料理屋があった。その奥まった一室である。 四人の武士が話している。 夜である。初夏の宵だ。 「どうでも誘拐(かどわか)す必要がある」 こういったのは三十年輩の、いやらしいほどの美男の武士で、寺侍かとも思われる。俳優といってもよさそうである。衣裳も持ち物も立派である。が、寺侍でも俳優でもなく、どうやら裕福の浪人らしい。
文字遣い
新字新仮名
初出
「サンデー毎日」1927(昭和2)年6月15日
底本
- 怪しの館 短編
- 国枝史郎伝奇文庫28、講談社
- 1976(昭和51)年11月12日