うらぎり
裏切り

冒頭文

ぼくが阿久津に働いていたので、日野が出入りするようになりました。彼が元子爵の息子だというのは本当です。 しかし奴めを斜陽族と云うのはとんでもないことで、彼が戦前ぼくと中学同級のとき、すでに裏長屋同然のところから通学しておりました。彼の父の子爵もそこに住んでいたのです。戦前から落ちぶれはてた世に稀な貧乏華族だったのです。 ぼくらは彼を野ザラシとよんでいました。例の落語の野ザラシで

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日

底本

  • 坂口安吾全集 15
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年10月20日