はなさけるいし
花咲ける石

冒頭文

群馬県の上越国境にちかい山間地帯を利根郡という。つまり利根川の上流だ。また一方は尾瀬沼の湿地帯にも連っている。 この利根郡というところは幕末まであらゆる村に剣術の道場があった。村といっても当時は今の字(あざ)、もしくは部落に当るのがそれだから、山間の小さな部落という部落に例外なく道場があって、村々の男という男がみんな剣を使ったのである。現今では只見川とか藤原とかそれぞれダムになって水の底

文字遣い

新字新仮名

初出

「週刊朝日別冊 第三号」1954(昭和29)年8月10日

底本

  • 坂口安吾全集 15
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年10月20日