めいじかいか あんごとりもの 19 そのじゅうはち おどるとけい
明治開化 安吾捕物 19 その十八 踊る時計

冒頭文

妙子は自分の生れた時信家を軽蔑していた。父の全作がそもそも虫が好かない。父だから仕方なしにつきあっているようなものだが、顔を見るのもイヤなのだ。 母が生きていれば家庭に親しみが持てたのかしらと考えてみることもあるが、どうも母のないせいではなさそうだ。彼女の母はあんまり父が冷酷でワガママなので、神経衰弱になり、一日に一皮ずつ痩せたあげく、ハヤリ目とカッケにかかって死んだそうだ。

文字遣い

新字新仮名

初出

「小説新潮 第六巻第八号」1952(昭和27)年6月1日

底本

  • 坂口安吾全集 10
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年11月20日