めいじかいか あんごとりもの 18 そのじゅうしち おおかみだいみょうじん
明治開化 安吾捕物 18 その十七 狼大明神

冒頭文

庭の片隅にオイナリ様があった。母が信心していたのである。母が生きていたころは、風雨に拘らず朝夕必ず拝んでいた。外出して夜更けに帰宅することがあっても、家人への挨拶もそこそこに、オイナリ様を拝んでくるのが例であった。朝夕の参拝を果さぬうちは、昼と夜の安らぎが得られぬように見えるほど切実な日参だった。しかし、母以外の者は一人も拝みに行く者がなかった。 母が病床についてから死に至るまでの一月ほ

文字遣い

新字新仮名

初出

「小説新潮 第六巻第七号」1952(昭和27)年5月1日

底本

  • 坂口安吾全集 10
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年11月20日