めいじかいか あんごとりもの 12 そのじゅういち いなずまはみたり
明治開化 安吾捕物 12 その十一 稲妻は見たり

冒頭文

雷ギライという人種がある。まア人間は普通カミナリがキライのようだが、特別キライという人種があって、私の知人にもカミナリがキライで疎開このかた伊東の地に住みついてしまった人がある。伊東は年に四、五回、遠雷がかすかにカミナリのマネをしてみせる程度で、片道三時間の通勤は不便だが、ヘソをぬかれる心配のない平和に替えられないと彼は云っている。 なるほど東京はカミナリの多いところだ、私は矢口の渡しに

文字遣い

新字新仮名

初出

「小説新潮 第五巻第一一号」1951(昭和26)年9月1日

底本

  • 坂口安吾全集 10
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年11月20日