おんよく
温浴

冒頭文

今の家へは、温泉がぬるいというのを承知の上で越してきた。 伊東は市ではあるが、熱海とは比較にならないほど、ひなびている。けれども温泉場であるから、道路には広告塔があって休むことなく喋りまくり唄いまくっているし、旅館からは絶え間なくラジオががなりたてて、ヘタクソなピアノもきこえる。先方も商売であるから、静かにしろ、と云うわけにはいかない。 よそは住宅難だが、伊東には売家も貸家も多

文字遣い

新字新仮名

初出

「群像 第五巻第四号」1950(昭和25)年4月1日

底本

  • 坂口安吾全集 09
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年10月20日