みずとりてい
水鳥亭

冒頭文

一匹のイワシ 日曜の夜になると、梅村亮作の女房信子はさッさとフトンをかぶって、ねてしもう。娘の克子もそれにならって、フトンをひっかぶって、ねるのであった。 九時半か十時ごろ、 「梅村さん。起きてますか」 裏口から、こう声がかかる。 火のない火鉢にかがみこんで、タバコの屑をさがしだしてキセルにつめて吸っていた亮作は、その声に活気づいて立ち上る。 い

文字遣い

新字新仮名

初出

「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日

底本

  • 坂口安吾全集 09
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年10月20日