ひゃくまんにんのぶんがく
百万人の文学

冒頭文

二十年ほど昔「アドルフ」を買ったら百六十何版とあったのを記憶する。百何年という年月とはいえ、こんな一般向きのしない小説が、チリもつもれば山となるらしい。 フランスで一版というのは、だいたい五万部が単位だということであるが、常にハッキリと、また、歴史的にも、そうであったかどうか知らないが、俗説通りに勘定すると、ほかの出版屋の分もあるだろうから、百何年間に一千万人以上の人が一本ずつ買ったと見

文字遣い

新字新仮名

初出

「朝日新聞 第二二九八九号」1950(昭和25)年2月26日

底本

  • 坂口安吾全集 09
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年10月20日