ちいさなやぎのきろく
小さな山羊の記録

冒頭文

私は若い頃から、衰頽の期間にいつも洟汁が流れて悩む習慣があった。青洟ではなく、透明な粘液的なものであった。だから蓄膿症だと思ったことはない。然し、ねていると胃に流れこみ、起きていると、むやみに洟をかみつゞけなければならない。胃へ流れこむまゝにすると、忽ち吐き気を催し、終日吐き気に苦しんで、思考する時間もなく、仕事に注意を集中し持続するということが全く不可能となるのであった。 私は元来、甚

文字遣い

新字新仮名

初出

「作品 第四号」1949(昭和24)年10月25日

底本

  • 坂口安吾全集 08
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年9月20日