つりしのしんきょう
釣り師の心境

冒頭文

私は妙に魚釣りに縁のあるあたりに住んできたが、小田原で三日間ぐらい鮎釣りをした以外は魚を釣ったことがない。先日もお医者さんから、早朝の魚釣りなどは健康によろしいから、とすゝめられたが、なるほど今住むところも、わざ〳〵東京から釣りにくる人があって、それを目当てのボート屋などもある土地だが、釣りをする気持にはなれないのである。 駅前のカストリ屋のオヤジは投網(とあみ)をもっていて、これも私を

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学界 第三巻第六号」1949(昭和24)年8月1日

底本

  • 坂口安吾全集 08
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年9月20日