せいしんびょうおぼえがき
精神病覚え書

冒頭文

一ヶ月余の睡眠治療が終って、どうやら食慾も出、歩行もいくらか可能になったころ、まだ戸外の散歩はムリであるから、医者のフリをして、ちょッと外来を見せて貰った。幸い僕の担当が外来長の千谷さんであったから、有無を言わさず、僕が勝手に乗りこんだようなものであった。 ほかの精神病院のことは知らないが、東大に関する限り、ここが精神病院の何より良いところである。お医者さん、看護婦、附添い、すべて患者の

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝春秋 第二七巻第六号」1949(昭和24)年6月1日

底本

  • 坂口安吾全集 07
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年8月20日