ふぶきものがたり ――ゆめとちせい――
吹雪物語 ――夢と知性――

冒頭文

一 一九三×年のことである。新潟も変つた。雪国の気候の暗さは、真夏の明るい空の下でも、道路や、建築や、行き交ふ人々の表情の中に、なにがなし疲れの翳を澱ませて、ひそんでゐる。さういふ特殊な気候の暗さや、疲れの翳が、もはや殆んど街の表情に見られないのだ。まづ第一に鋪装道路。表通りの商店街は、どの都市にもそつくり見かけるあたりまへの商店建築が立ちならび、壁面よりも硝子(ガラス)の多い軽快な洋風

文字遣い

新字旧仮名

初出

「吹雪物語」竹村書房、1938(昭和13)年7月20日

底本

  • 坂口安吾全集 02
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年4月20日