いごしゅぎょう
囲碁修業

冒頭文

(一) 京都の伏見稲荷の近辺に上田食堂といふのがある。京阪電車の「稲荷」といふ停留場の西側出口に立つと、簡易食堂、定食十銭と書いて、露路の奥を指してゐる看板が見える。去年の秋から、その下へ、囲碁倶楽部といふ看板がふえた。僕が京都へ残して来た仕業である。看板の指し示す袋小路のどん底に、白昼もまつくらな簡易食堂があり、その二階が碁会所だつた。 書きかけの長篇小説の原稿をふところに入れて

文字遣い

新字旧仮名

初出

「都新聞 第一八一八七~一八一八九号」1938(昭和13)年6月21日~23日

底本

  • 坂口安吾全集 02
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年4月20日