きたとみなみ
北と南

冒頭文

「南紀風物誌」といふ本がある。(西瀬英一著、東京竹村書房発行)熊野から新宮、串本あたりの南紀州の風物を紹介したもので郷土色の横溢した読物であるが、南国のたそがれ、子供達が竿をもち、口々に蝙蝠ほいと呼びながら飛ぶ蝙蝠を竿で地上へたゝき落す、南国のでう〳〵たる余韻と愁ひを流した風景を描いて、郷愁を代表する情景のやうにいつてゐた。この著者は越後新発田(しばた)に旅行した事があるものとみえ、この南国の風景

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潟新聞 第二〇〇一五号〈夕刊〉」1937(昭和12)年1月14日付(13日発行)

底本

  • 坂口安吾全集 02
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年4月20日