てがみざつだん
手紙雑談

冒頭文

(上) スタンダアルやメリメのやうに死後の出版を見越して手紙を書残した作家がある。私も少年の頃はさういふ気持が強く一々の手紙に自分の存在を書き刻むやうな気持であつたが、その努力が今ではすべて小説にとられ、手紙は用件を書きなぐるのが精一杯で、死後の出版を見越した魂胆は微塵もない。 自分の存在を書残したい願望は誰の心にもあることで、日記なり手紙なりに思のすべてを書きとめようとする努力は

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中外商業新聞」1936(昭和11)年12月24日~26日

底本

  • 坂口安吾全集 02
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年4月20日