ろううめん
老嫗面

冒頭文

初夏のうららかなまひるであつた。安川はタツノの着物をつめこんだ行李を背負つて我家へむかつた。安川のうしろには、タツノが小さな手荷物をさげ、うはづつた眼付をしてぼんやり歩いてゐた。タツノのうしろには彼女の三人の朋輩が、一人はあくどい紫色の女持トランクをぶらさげ、あとの二人は異体(えたい)の知れない大包のみそれぞれ一端をつるしあげながら、からみあつてねり歩いてきた。露路の奥から子供の群が駈けだしてきて

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文芸通信 第四巻第一〇号」1936(昭和11)年10月1日

底本

  • 坂口安吾全集 02
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年4月20日