ははをころしたしょうねん
母を殺した少年

冒頭文

雪国生れの人々は気候のために故郷を呪ひがちであつた。いつもいつも灰色の空。太陽は生命と希望の象徴であるが、象徴を失ふことが現実に希望と生命を去勢する無力さを、彼等は知らねばならなかつた。ためらひや要心や気憶れや、人間関係の弱さだけで沢山だつた。そのうへまるで植物のやうに自然界の弱さまで思ひ知らねばならないのだ。雪国の叡智を育てるものは疑ひ深い要心と抜け道のないためらひだつた。味方すら信じきれない細

文字遣い

新字旧仮名

初出

「作品 第七巻第九号」1936(昭和11)年9月1日

底本

  • 坂口安吾全集 02
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年4月20日