まきのさんのさいてんによせて
牧野さんの祭典によせて

冒頭文

私の考へ方が間違つてゐるのかも知れないが、私には牧野さんの死がちつとも暗く見えないし、まして悲痛にも見えない。却つて明るいのである。 牧野さんの人生は彼の夢で、彼は文学にそして夢に生きてゐた。夢が人生を殺したのである。殺した方が牧野さんで、殺された人生の方には却つて牧野さんがなかつた。牧野さんの自殺は牧野さんの文学の祭典だ。私はさう考へていいと思つてゐる。このことは、いづれくはしく書くつ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「早稲田文学 第三巻第五号」1936(昭和11)年5月1日

底本

  • 坂口安吾全集 02
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年4月20日