るろうのついおく
流浪の追憶

冒頭文

(一) 私は友達から放浪児と言はれる。なるほどこのところ数年は定まる家もなく旅やら食客やら転々としたが、関東をめぐる狭小な地域で、放浪なぞと言ふほどのものではない。地上の放浪に比べたなら私の精神の放浪の方が余程ひどくもあり苦痛でもあつた。然しそれはこゝに書くべき事柄ではない。 放浪といふほどでなくとも、思ひだすと、なるほど八方に隠見出没した自分の姿に呆れないこともない。然しながらど

文字遣い

新字旧仮名

初出

「都新聞」1936(昭和11)年3月17日~19日

底本

  • 坂口安吾全集 02
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年4月20日