おならさま
お奈良さま

冒頭文

お奈良さまと云っても奈良の大仏さまのことではない。奈良という漢字を当てるのがそもそもよろしくないのであるが、こればかりは奈良の字を当てたいという当人の悲願であるから、その悲願まで無視するのは情において忍びがたいのである。 お奈良さまはさる寺の住職であるが、どういうわけか生れつきオナラが多かった。別に胃腸が人と変っているわけではないらしく到って壮健でまるまるとふとってござるが、生れた時から

文字遣い

新字新仮名

初出

「別冊小説新潮 第八巻第一〇号」1954(昭和29)年7月15日

底本

  • 坂口安吾全集 14
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年6月20日