ぶんかさい
文化祭

冒頭文

趣味というものは広いものだ。信じられないようなことを好む人がある。 井田信二は農村の静かな風物のなかで何不自由なく育った。彼の周囲の人々はそれぞれアクセク土にまみれて働いているのに、彼だけは戦時中も卵や牛乳にも不自由なくいわば小国の王子のように育ったのである。そのアゲクとして、彼が成人したときに、何が一番好きかというと、人から物を借りること、借りた物を返さないこと、サイソクされるとヌラリ

文字遣い

新字新仮名

初出

「小説新潮 第八巻第九号」1954(昭和29)年6月1日

底本

  • 坂口安吾全集 14
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年6月20日