かげのないはんにん
影のない犯人

冒頭文

診察拒否の巻 この温泉都市でたぶん前山別荘が一番大きな別荘だろう。その隣に並木病院がある。この病院でその晩重大な会議がひらかれていた。集る者、三名。主人の並木先生(五十五歳)剣術使いの牛久玄斎先生(七十歳)一刀彫の木彫家で南画家の石川狂六先生(五十歳)いずれも先生とよばれるほどの三氏である。 「アナタがバカなことを口走るものだから、こういうことになったのですぞ」と並木先生は締め殺し

文字遣い

新字新仮名

初出

「別冊小説新潮 第七巻第一二号」1953(昭和28)年9月15日

底本

  • 坂口安吾全集 14
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年6月20日