いしのおもい
石の思ひ

冒頭文

私の父は私の十八の年(丁度東京の大地震の秋であつたが)に死んだのだから父と子との交渉が相当あつてもよい筈なのだが、何もない。私は十三人もある兄弟(尤も妾の子もある)の末男で下に妹が一人あるだけ父とは全く年齢が違ふ。だから私の友人達が子供と二十五か三十しか違はないので子供達と友達みたいに話をしてゐるのを見ると変な気がするので、私と父にはさういふ記憶が全くない。 私の父は二三流ぐらゐの政治家

文字遣い

新字旧仮名

初出

「光 LACLARTÉ 第二巻第一一号」1946(昭和21)年11月1日

底本

  • 坂口安吾全集 04
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年5月22日