まのたいくつ
魔の退屈

冒頭文

戦争中、私ぐらゐだらしのない男はめつたになかつたと思ふ。今度はくるか、今度は、と赤い紙キレを覚悟してゐたが、たうとうそれも来ず、徴用令も出頭命令といふのはきたけれども、二三たづねられただけで、外の人達に比べると驚くほどあつさりと、おまけに「どうも御苦労様でした」と馬鹿丁寧に送りだされて終りであつた。 私は戦争中は天命にまかせて何でも勝手にしろ、俺は知らんといふ主義であつたから、徴用出頭命

文字遣い

新字旧仮名

初出

「太平 第二巻第一〇号」時事通信社、1946(昭和21)年10月1日

底本

  • 坂口安吾全集 04
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年5月22日