がき
我鬼

冒頭文

秀吉は意志で弱点を抑へてゐた、その自制は上り目の時には楽しい遊戯である。盛運の秀吉は金持喧嘩せず、心気悠揚として作意すらも意識せられず、長所だけで出来あがつた自分自身のやうであつた。彼は短気であつたが、あべこべに腹が立たなくなり、馬鹿にされ、踏みつけられ、裏切られ、それでも平気で、つまり実質的な自信があつた。家康に卑屈なほどのお世辞を使ひ、北条の悪意のこもつた背信に平然三年間も人事のやうに柳に風、

文字遣い

新字旧仮名

初出

「社会 創刊号」鎌倉書房、1946(昭和21)年9月20日

底本

  • 坂口安吾全集 04
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年5月22日