かにのあわ
蟹の泡

冒頭文

私は中戸川とみゑさんの「ひとりごと」を読んで、私が遺族だつたら、遺言通り燃しちやつたのにな、と思つた。私は「春日」といふこの人の俳句集、日本文学の歴史的な傑作の一つを読んでゐたので、「ひとりごと」のやうな蛇足は燃した方がよかつたといふ考へなのだ。傑作には楽屋裏の知識は必要ではないので、それ自体自立してゐるものであるから、作者の伝記も、名前もいらない、私は文学の世界に流行する楽屋裏的嗜好は最も愛さな

文字遣い

新字旧仮名

初出

「雑談 第一巻第五号」白鴎社、1946(昭和21)年9月1日

底本

  • 坂口安吾全集 04
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年5月22日