よくぼうについて ――プレヴォとラクロ――
欲望について ――プレヴォとラクロ――

冒頭文

私は昔から家庭といふものに疑ひをいだいてゐた。愛する人と家庭をつくりたいのも人の本能であるかも知れぬが、この家庭を否応なく、陰鬱に、死に至るまで守らねばならぬか、どうか。なぜ、それが美徳であるのか。勤倹の精神とか困苦耐乏の精神とか、さういふ美徳と同じやうに、実際は美徳よりも悪徳にちかいものではないかといふ気が、私にはしてならなかつた。 多くの人々の家庭はたのしい棲家よりも、私にはむしろ牢

文字遣い

新字旧仮名

初出

「人間 第一巻第九号」1946(昭和21)年9月1日

底本

  • 坂口安吾全集 04
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年5月22日