がいとうとあおぞら |
外套と青空 |
冒頭文
二人が知り合つたのは銀座の碁席で、こんなところで碁の趣味以上の友情が始まることは稀なものだが、生方(うぶかた)庄吉はあたり構はぬ傍若無人の率直さで落合太平に近づいてきた。庄吉は五十をすぎた立派な紳士で、高価な洋服の胸に金の鎖をのぞかせ、頭髪は手入れの届いたオールバックで、その髪の毛は半白であつたが、理智と決断力によつて調和よく刻みこまれた顔はまだ若々しく典雅で、整然たる姿に飾り気のない威厳がこもつ
文字遣い
新字旧仮名
初出
「中央公論 第六一年第七号」中央公論社、1946(昭和21)年7月1日
底本
- 坂口安吾全集 04
- 筑摩書房
- 1998(平成10)年5月22日