しょじょさくぜんごのおもいで
処女作前後の思ひ出

冒頭文

私が二十の年に坊主にならうと考へたのは、何か悟りといふものがあつて、そこに到達すると精神の円熟を得て浮世の卑小さを忘れることができると発願(ほつがん)したのであるが、実は歪められた発願であつて、内心は小説家になりたかつたのであり、それを諦めたところに宗教的な満足をもとめる心も育つたのであらうと思ふ。なぜ諦めたかと云へば、言ふまでもなく、才能がないと思つたからだ。 芸術は天才がなければ出来

文字遣い

新字旧仮名

初出

「早稲田文学 第一三巻第二号」1946(昭和21)年3月1日

底本

  • 坂口安吾全集 04
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年5月22日