わがちをおうひとびと
わが血を追ふ人々

冒頭文

その一 渡辺小左衛門は鳥銃をぶらさげて冬山をのそ〳〵とぶらついてゐる男のことを考へると、ちようど蛇の嫌ひな者が蛇を見たときと同じ嫌悪を感じた。この男が鳥銃をぶらさげて歩くには理由があるので、人に怪しまれず毎日野山を歩き廻るには猟人の風をするに限る。この男は最近この村へ越してきて、それも渡辺小左衛門を頼つて、彼の地所を借りうけた。名目は小左衛門の小作であるが、畑などは耕さぬ。毎日鳥銃をぶらさげ

文字遣い

新字新仮名

初出

「近代文学 第一巻第一号」1946(昭和21)年1月10日

底本

  • 坂口安吾全集 04
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年5月22日