さいはんにさいして(『ふぶきものがたり』)
再版に際して〔『吹雪物語』〕

冒頭文

この小説は私にとつては、全く悪夢のやうな小説だ。これを書きだしたのは昭和十一年の暮で、この年の始めに私はある婦人に絶縁の手紙を送り、私は最も愛する人と自ら意志して別れた。 それは私にとつては、たしかに悲痛なものであつた。私はその婦人と、五年間の恋人だつたが、会つたのは合計一年にもならない年月で、中間の四年間は、私は他の女と同棲してゐた。会はなかつた四年の年月は、私の心に大きな変化を与へ、

文字遣い

新字旧仮名

初出

「吹雪物語」新体社、1947(昭和22)年7月5日

底本

  • 坂口安吾全集 05
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年6月20日