あくさいろん
悪妻論

冒頭文

悪妻には一般的な型はない。女房と亭主の個性の相対的なものであるから、わが平野謙の如く(彼は僕らの仲間では大愛妻家といふ定説だ)先日両手をホータイでまき、日本が木綿不足で困つてゐるなどゝは想像もできない物々しいホータイだ。肉がゑぐられる深傷だといふ無慙な話であるけれども、彼の方が女房の横ッ面をヒッパたいたことすらもないといふ沈着なる性格、深遠なる心境、まさしく愛猫家や愛妻家の心境といふものは凡俗には

文字遣い

新字旧仮名

初出

「婦人文庫 第二巻第七号」1947(昭和22)年7月1日

底本

  • 坂口安吾全集 05
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年6月20日