きんせんむじょう
金銭無情

冒頭文

金銭無情 最上清人は哲学者だ。十年ほど前、エピキュロスに於ける何とかといふ論文と、プラトンの何とかといふ論文を私も雑誌に見かけたことがあるが、その後は著作はやらなくなり、講壇に立つたことは一度もないので、哲学専門の学生でも彼の名は知らない。 先日私のもとに訪れてきた雑誌記者の話によれば、彼の恩師のDD氏は、哲学界の新人は? といふ記者の問に答へて、さて、新人かどうか、彼はすでに旧人だが

文字遣い

新字新仮名

初出

金銭無情「別冊文藝春秋 第三号」文藝春秋新社、1947(昭和22)年6月1日、失恋難「月刊読売 第五巻第八号」1947(昭和22)年8月1日、夜の王様「サロン 第二巻第八号」1947(昭和22)年9月1日、王様失脚「サロン 第二巻第一〇号」1947(昭和22)年11月1日

底本

  • 坂口安吾全集 05
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年6月20日