きょうそのぶんがく
教祖の文学

冒頭文

去年、小林秀雄が水道橋のプラットホームから墜落して不思議な命を助かつたといふ話をきいた。泥酔して一升ビンをぶらさげて酒ビンと一緒に墜落した由で、この話をきいた時は私の方が心細くなつたものだ。それは私が小林といふ人物を煮ても焼いても食へないやうな骨つぽい、そしてチミツな人物と心得、あの男だけは自動車にハネ飛ばされたり川へ落つこつたりするやうなことがないだらうと思ひこんでゐたからで、それは又、私といふ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第四四巻第六号」1947(昭和22)年6月1日

底本

  • 坂口安吾全集 05
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年6月20日