くらいせいしゅん
暗い青春

冒頭文

まつたく暗い家だつた。いつも陽当りがいゝくせに。どうして、あんなに暗かつたのだらう。 それは芥川龍之介の家であつた。私があの家へ行くやうになつたのは、あるじの自殺後二三年すぎてゐたが、あるじの苦悶がまだしみついてゐるやうに暗かつた。私はいつもその暗さを呪ひ、死を蔑み、そして、あるじを憎んでゐた。 私は生きてゐる芥川龍之介は知らなかつた。私がこの家を訪れたのは、同人雑誌をだしたと

文字遣い

新字旧仮名

初出

「潮流 第二巻第五号」潮流社、1947(昭和22)年6月1日

底本

  • 坂口安吾全集 05
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年6月20日