じょ(『にげたいこころ』)
序〔『逃げたい心』〕

冒頭文

「海の霧」は私が始めて職業雑誌といふものへ書いた、つまり原稿料といふものを貰つた最初の作品で、昭和六年夏、私は二十六であつた。まるで私の身辺小説、何か愛人があつてその人との何かのやうな書き方であるが、全然ウソ、私小説ではない。 このときの文藝春秋は新人号といふので、井伏鱒二その他数名の執筆がすでに定まつてゐたのを、急に私が一枚加はつた。私は同人雑誌に短篇三つ発表したばかり、それをみとめられて

文字遣い

新字旧仮名

初出

「逃げたい心」銀座出版社、1947(昭和22)年4月20日

底本

  • 坂口安吾全集 05
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年6月20日