アンゴウ
アンゴウ

冒頭文

矢島は社用で神田へでるたび、いつもするように、古本屋をのぞいて歩いた。すると、太田亮氏著「日本古代に於ける社会組織の研究」が目についたので、とりあげた。 一度は彼も所蔵したことのある本であるが、出征中戦火でキレイに蔵書を焼き払ってしまった。失われた書物に再会するのはなつかしいから手にとらずにいられなくなるけれども、今さら一冊二冊買い戻してみてもと、買う気持にもならない。そのくせ別れづらく

文字遣い

新字新仮名

初出

「サロン別冊 特選小説集・第二輯」1948(昭和23)年5月20日

底本

  • 坂口安吾全集 06
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年5月22日