ていぎんじけんをろんず
帝銀事件を論ず

冒頭文

帝銀事件はとくに智能犯というほどのものではないようだ。 この犯人から特別つよく感じさせられるのはむしろ戦争の匂いである。私は、外地の戦場は知らないのだが、私の住む町が一望の焼け野となり、その二カ月ほど後に再び空襲を受けて、あるアパートの防空壕へ五〇キロの焼夷弾が落ちた。中に七人の屈強な壮年工がはいっていて爆死したが、爆死といっても、爆発力はないのだし、ただ衝撃で死んだだけで、焼けてもおら

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論 第六三年第三号」1948(昭和23)年3月1日

底本

  • 坂口安吾全集 06
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年5月22日