りんらくのせいしゅん
淪落の青春

冒頭文

石塚貞吉が兵隊から帰ってきたころは、日本はまったく変っていた。彼の兵隊生活は捕虜時代も数えて八年にわたり、ソ満国境から北支、南支、仏印、フィリッピン、ビルマ、戦争らしい戦争はビルマだけ、こゝではひどい敗戦で逃げまわっているうちに終戦、捕虜になった。彼が故国へ帰ってきたのは、終戦後一年半も後のことで、おぼろげながら故国の様子も伝わっており、別に感動もなく引揚船から日本本土へ、東京を廻って、故郷の山国

文字遣い

新字新仮名

初出

「ろまねすく 第一巻第一号」ろまねすく社、1948(昭和23)年1月1日

底本

  • 坂口安吾全集 06
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年5月22日