はくち
白痴

冒頭文

その家には人間と豚と犬と鶏と家鴨(あひる)が住んでいたが、まったく、住む建物も各々の食物も殆(ほとん)ど変っていやしない。物置のようなひん曲った建物があって、階下には主人夫婦、天井裏には母と娘が間借りしていて、この娘は相手の分らぬ子供を孕(はら)んでいる。 伊沢の借りている一室は母屋から分離した小屋で、ここは昔この家の肺病の息子がねていたそうだが、肺病の豚にも贅沢すぎる小屋ではない。それ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮 第四十三巻第六号」1946(昭和21)年6月1日

底本

  • 坂口安吾全集4
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1990(平成2)年3月27日