さくらのもりのまんかいのした
桜の森の満開の下

冒頭文

桜の花が咲くと人々は酒をぶらさげたり団子(だんご)をたべて花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれて陽気になりますが、これは嘘です。なぜ嘘かと申しますと、桜の花の下へ人がより集って酔っ払ってゲロを吐いて喧嘩(けんか)して、これは江戸時代からの話で、大昔は桜の花の下は怖しいと思っても、絶景だなどとは誰も思いませんでした。近頃は桜の花の下といえば人間がより集って酒をのんで喧嘩していますから陽気でに

文字遣い

新字新仮名

初出

「肉体 第一巻第一号」暁社、1947(昭和22)年6月15日

底本

  • 坂口安吾全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1990(平成2)年4月24日