やまのことぶれ
山のことぶれ

冒頭文

一 山を訪れる人々 明ければ、去年の正月である。初春の月半ばは、信濃・三河の境山のひどい寒村のあちこちに、過したことであつた。幾すぢかの谿を行きつめた山の入りから、更に、うなじを反らして見あげる様な、岨(ソバ)の鼻などに、さう言ふ村々はあつた。殊に山陽(カゲトモ)の丘根(ヲネ)の裾を占めて散らばつた、三河側の山家は寂しかつた。峠などからふり顧(カヘ)ると、必、うしろの枯れ芝山に、ひなたと陰とをく

文字遣い

新字旧仮名

初出

「改造 第九巻第一号」1927(昭和2)年1月

底本

  • 折口信夫全集 2
  • 中央公論社
  • 1995(平成7)年3月10日