がきあみそせいたん
餓鬼阿弥蘇生譚

冒頭文

一 餓鬼 世の中は推し移つて、小栗とも、照手とも、耳にすることがなくなつた。子どもの頃は、道頓堀の芝居で、年に二三度は必見かけたのが、小栗物の絵看板であつた。ところの若い衆の祭文と言へば、きまつて「照手車引き近江八景」の段がかたられたものである。芝居では、幾種類とある小栗物のどれにも「餓鬼阿弥」の出る舞台面は逃げて居た。祭文筋にも、餓鬼阿弥の姿は描写して居なかつた。私どもゝ、私より古い人たちも、

文字遣い

新字旧仮名

初出

「民族 第一巻第二号」1926(大正15)年1月

底本

  • 折口信夫全集 2
  • 中央公論社
  • 1995(平成7)年3月10日