しのだづまのはなし
信太妻の話

冒頭文

一 今から二十年も前、特に青年らしい感傷に耽りがちであつた当時、私の通つて居た学校が、靖国神社の近くにあつた。それで招魂祭にはよく、時間の間を見ては、行き〳〵したものだ。今もあるやうに、其頃からあの馬場の北側には、猿芝居がかゝつてゐた。ある時這入つて見ると「葛の葉の子別れ」といふのをしてゐる。猿廻しが大した節廻しもなく、さうした場面の抒情的な地の文を謡ふに連れて、葛の葉狐に扮した猿が、右顧左眄の

文字遣い

新字旧仮名

初出

「三田評論 第三二〇・三二二・三二三号」1924(大正13)年4月6月7月

底本

  • 折口信夫全集 2
  • 中央公論社
  • 1995(平成7)年3月10日