ひげこのはなし
髯籠の話

冒頭文

一 十三四年前、友人等と葛城山の方への旅行した時、牛滝から犬鳴山へ尾根伝ひの路に迷うて、紀州西河原と言ふ山村に下りて了ひ、はからずも一夜の宿を取つたことがある。其翌朝早く其処を立つて、一里ばかり田中の道を下りに、粉河寺の裏門に辿り着き、御堂を拝し畢つて表門を出ると、まづ目に着いたものがある。其日はちようど、祭りのごえん(後宴か御縁か)と言うて、まだ戸を閉ぢた家の多い町に、曳き捨てられただんじりの

文字遣い

新字旧仮名

初出

「郷土研究 第三巻第二・三号、第四巻第九号」1915(大正4)年4月、5月、1916(大正5)年12月

底本

  • 折口信夫全集 2
  • 中央公論社
  • 1995(平成7)年3月10日