余は子規(しき)の描(か)いた畫(ゑ)をたつた一枚持つてゐる。亡友の記念(かたみ)だと思つて長い間それを袋の中に入れて仕舞つて置いた。年數(ねんすう)の經(た)つに伴(つ)れて、ある時は丸(まる)で袋の所在を忘れて打ち過ぎる事も多かつた。近頃不圖(ふと)思ひ出して、あゝして置いては轉宅の際などに何處へ散逸するかも知れないから、今のうちに表具屋へ遣(や)つて懸物(かけもの)にでも仕立てさせやうと云ふ